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【本】筒井康隆「旅のラゴス」(1986)

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Book Review
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「アルケミスト」を読んで、読みかけの「旅のラゴス」を思い出す

前回のブックレビューでは、パウロ・コエーリョ「アルケミスト」を読んだ感想を紹介しました。
「アルケミスト」を読んでいて、「この感じ、なんか知っているんだよな」と思って本棚に近づくと、それが「旅のラゴス」であることが思い出されました。
表題を書きながら初版の刊行が2年違いと気づいて、1980年代後半という時代についても気になり始めています。そもそも2つの作品に関係があるのかないのかさっぱり前知識がありませんが、せっかく近接させたので比較しつつ感想を述べたいと思います。

感想(「旅のラゴス」単体で)

・前半と後半で質の異なる面白さがありました
前半はラゴスという人物が何者なのか、旅の目的が何なのか全然掴めません。でも只者じゃなさそうで、展開のテンポもよく読者に飽きる暇を与えません。
後半はギュッと濃度が増します。一度しか読んでいない状態で感想を書くのを躊躇うくらい。もう一度読まないと後半の旨味を味わい切れない感じがあります。私は特に後半でラゴスが本の虫になるところが好きです。
文庫で300頁もないので、とにかく読み進めてほしいです。

・筒井康隆作品のデビューにおすすめ
私は過去2作品について挫折あるいは手を出せませんでした。そんな私でもするすると読み進めることができたので、個人の体験に基づいておすすめできます。具体的には「文学部唯野教授」を文学部入学前に挑戦して早々に挫折、「残像に口紅を」の冒頭を立ち読みで眺めたけれど結果購入せず。さらに普段SFは読まない(ディストピア小説の方が興味あり)のですが、「旅のラゴス」の登場人物たちが持つ特殊能力や、時代に遡っているのか進んでいるのか掴めない感じがむしろ心地よく己の常識を揺さぶってきて楽しめました。

・筒井康隆作品になぜ再チャレンジしたか
あるとき、職場の50代男性上司2人が「結局、筒井康隆が良いよね」とお酒の席で盛り上がっていました。傍から見てその2人に共通項を見出せず、意気投合する仲だとは思っていなかったのですが、そんな2人が声を揃えて「やっぱり良いもんは良い」と言うのだからいつか読んでみたかった。ちょっとした憧れが発端なのでした。

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感想(「アルケミスト」を並べて)

「アルケミスト」が夢に向かってひたむきに生きる大切さをメッセージとして持っているとすれば、「旅のラゴス」はそういう質感での主題は持っていないと感じました。何かしらのメッセージを感じ取るというよりも、ただただ筆者の言葉や表現を浴びるだけで満足、というか付いていくのに必死!になる本だと思います。
ラゴスが奴隷として生きることを強いられた期間の振る舞いや、本の虫になって以降、現実に起こる諸問題について学問をもとに解決策を見出していく姿からは「知識」の重要性を感じられると思います。ただ、賢くなったからうまくいく、異性にモテる、そういう打算的な思想でラゴスが生きているわけではないということは明らかです。

と、ここまで書きながらちょこちょこWikipediaを中心にネットで基礎知識を蓄え始めると、「アルケミスト」というよりも「アルケミスト」を含む、それ以前からあるラテンアメリカ文学と筒井康隆に関係があると分かってきました。日本にラテンアメリカブームがやってきて、それに筒井康隆も影響を受けたようです。1960年代にはラテンアメリカ諸国で盛り上がりを見せ、その波が1970年代に入って日本へも到来したとか。ガルシア・マルケス「百年の孤独」もその時期ですね。1969年に中央公論社から創刊された文芸雑誌「海」が重要そうですが、ここでは割愛します。

「アルケミスト」を読みながら筒井康隆に繋がった流れは偶然では無いようで、また読書の魔法に魅了されました。

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